「英国の煙突掃除」~煙突掃除先進国イギリスで国際交流~
イギリスの煙突掃除人JoeGomezさんとの出会い
2年前に煙筒の横山に煙突掃除を見学させて欲しいと、
はるばるイギリスからやってきた煙突掃除屋のジョーさん
と奥様のルイーズさん。

その時のブログはこちらから👇(注;これも長いです)
「ジョーさんが現役のうちにイギリスに行って
本場の煙突掃除をこの目に焼き付けたい」
その一心で、社長の横山愛慈と私(設楽照久)とで約束の地に訪問してきました。
40年前に横山愛慈が煙突掃除専門の会社としてスタートした弊社ですが、
当時の煙突掃除は年配の仕事のイメージが強く、言わば底辺の仕事の様に見られていました。
そんな中、雑誌やテレビで知ったヨーロッパの煙突掃除屋さんは
「幸運の象徴」として親しまれ、
自分の仕事に誇りを持って働いているイメージを持っており、
そのシルクハットに黒いコスチュームを身にまった姿には
憧れや目標、時にはライバル心の様な気持ちすら抱いていました。

中でもイギリスは屋根に登らずに煙突掃除ができる革命的な道具を
生み出した国。
煙突掃除屋が登場する映画として有名なディズニー映画
「メリーポピンズ」の原作もイギリス発祥。
様々なご縁を感じつつ、我々としては特別な想いを胸に抱いて海を渡りました。
ジョーさんご夫妻との再会とイギリスの現状

ヒースロー空港でジョーさんご夫妻の熱烈なお出迎えから始まり、
この旅路の最中本当に申し訳ないくらい手厚くもてなして頂くことに
なるのですが、煙突掃除の前に少しイギリスの歴史に触れておきます。

巨大な煙突が4本そびえ立つこの建物は「バターシー発電所」という
旧石炭火力発電所。
現在はショッピングセンターとして利用されるこの建物は、
テムズ川添いのロンドン市街に位置するかつてはイギリス
最大級の発電所でした。
この発電所のみならず、多くの一般家庭の暖炉でも石炭を使用しており、
かつては「クライミングボーイ」と呼ばれる子供たちが文字通りその煙突の内部に入り、
時にはよじ登って掃除をし、転落・窒息による死亡事故が相次いで発生しておりました。
そして、1952年には大量の石炭の煙とイギリス特有の濃い霧が混ざり合い「ロンドン大スモッグ事件」が発生。
数日間で数千~1万人以上が呼吸器系の病気で亡くなくなるという痛ましい事件でした。(1987年には当発電所は完全停止)
そして2年前の2024年には国内の全石炭発電所が完全停止し、
産業革命時に最も石炭に依存した国がG7初の発電所の”脱石炭”達成国となりました。

因みに現在はこの巨大な煙突の中をリフトで頂上まで上がって
ロンドンの街並みが一望出来るアトラクションになっております。
早速、煙突屋らしい体験をさせて頂きました。
イギリスの煙突掃除
ジョーさんが住んでいるのはロンドンから東へ進んだESSEX(エセックス)という地域。
人口190万人、札幌市の人口ほどの都市の中に煙突掃除屋さんは100人以上いるとのこと![]()

需要が桁違いに多いと聞いてはいたものの
実際に住宅街を走っていると、この煙突の数を見て納得しました。
ジョーさんのご自宅に到着するなり、作業車と道具を見せて頂きました。

正直そのあまりのかっこよさに痺れました。

車内には煙突掃除に使用する多種多様なブラシが両サイドにびっしりと
掛けてあり、煙突掃除専門の車だということが一目でわかる
風貌に目が釘付けになりました。
煙突掃除屋としてこの瞬間だけでも来た甲斐があったと思える程、
気持ちが高揚しました。

この車に筒師シールを貼って頂いたのは大変光栄です![]()
※実際にはこの車は2人乗りなので3人乗りのレンタカーを手配して頂きました。


日本とは違いイギリスには煙突掃除の専門機関が複数存在していて、
ジョーさんはより専門性が高く研修期間も長い
「GUILD OF MASTER CHIMNEY SWEEPS」
という専門機関に属し、インストラクターの資格も持っています。
煙突掃除屋とストーブの設置業者はほとんどが分業されていて、
ストーブ設置の段階から煙突掃除屋さんが屋根に登らなくても掃除が出来る様に
施工するのがイギリスの特徴的なスタイルです。

そもそもジョーさんの車には梯子は積んでおらず、
全ての作業を屋根に登らずに掃除することが可能でした。

朝一で道具をレンタカーに積み替えて、慣れない車にゲストを2人連れて
の作業にも関わらず、
一件30分から40分ほどで計画通りに作業をこなし
多い日だと一日8件の煙突掃除を行いました。
(ジョーさんの最高記録は一日10件だそうです
)
※因みに我々筒師は基本2人一組で多くても一日4件を上限としています。

それでいて作業は非常に丁寧で、
お客様宅では挨拶から私達を紹介してくれて
談笑するところからスタート。
時間に追われる素振りは見せず、お客様との会話を非常に
大事にしていると感じました。
そして何より、どのお客様も暖かく歓迎してくれて
ご自宅に招き入れるなり直ぐに
「紅茶かコーヒーはいりますか?」
と必ず聞いてくれるのも印象的でした。
中には私達にもチップをくれるお客様もいらっしゃいました。

掃除前後の鏡での煙突内部チェックは欠かしません。
毎回、自分で確認した後に私達にも確認させてくれました。

イギリスの煙突は一つの燃焼機器に対し、一本の煙突を使用すると法律で決められており、
一つの煙突ボックスから複数土管が出ている光景を良く目にします。
これは中で土管や煉瓦で区切られているのですが、古くなって割れたり崩れたりして隣の煙突と
繋がってしまう場合もあるので、新しく薪ストーブを設置する際はフレキシブルライナー
という金属製の煙突を入れるのが一般的です。

鏡で確認するのは煤の状態はもちろんのこと、
そのライナーの有無と変形や抜けがないかなどを確認するのが大きな目的だそうです。

更に”スモークチェック”という煙を意図的に出し、
今回掃除した煙突から確実に煙が出てくるかをチェックします。

ジョーさんの場合は先に着火剤に火を点け外に出て確認、
そしてスモークチェックで再度外に出て確認という作業を徹底して
ました。
詰まってたり土管が割れてた場合に別のところから煙が出てくる場合もあるので
この工程は絶対に必要とのこと。
そして一酸化炭素感知器があれば動作確認まで行います。

最後にお客様へ現状報告やアドバイスなど細かに説明してその場で会計し、
「煙突掃除完了証明書」を発行します。
大事なポイントはこの「証明書」の有効期間は一年間ということ。
煙道火災で火事になった場合にこの証明書が無いと保険が適用されない
という仕組みになっている為、
例えそこまでストーブを使用してなくても
これからストーブを使用したい時にこの証明書の為に掃除と点検をしてもらう。
といった場面も見られました。
(中には前回掃除してから一度も使用した形跡が無いご自宅もありました
)
ほとんどが木造住宅の日本はなおさら見習うべき制度だと感じます。
因みにジョーさんは煙突掃除をしたその日に次の年の予約をとることもあり、
そのスケジュール管理からお客様の情報管理、証明書のデータ発行、経理等々
を現場ではスマートフォン一台、自宅ではノートパソコンのみで行ってました。
イギリスは基本どこでもクレジット決済が可能で日本と比べるとペーパーレス化が
圧倒的に進んでいると感じました。
イギリスの住宅事情と煙突掃除の関係

イギリスは暖炉文化が約800年以上前から根付いており、
また煉瓦を基調としている為耐久年数が長く、200~300年前くらいの住宅も多く残っています。
※上記の写真はイングルヌックという伝統的な暖炉の様式。

フラットと呼ばれる賃貸住宅にも各部屋に暖炉があり、
田舎の一軒家なら自宅に10個の暖炉があるのも珍しくありません。
今はガス暖房の普及により多くが塞がれていますが、その構造自体は残っているので
暖炉の煙突に薪ストーブを繋げて使用しているご家庭が多いです。

煙突掃除専門の道具メーカーも豊富に存在していて、
ブラシやロッドだけではなく掃除機まで煙突掃除専用のものを
使用しています。
そもそもイギリスは電圧が230Vなのでパワーが強力で集塵能力も
桁違いに優れています。

これくらいの煤でも全部掃除機で吸ってしまいます。

各家庭にこの様な自治体のごみ箱が設置されているので、
溜まった煤などは持ち帰らず置いてくる。
といったところにも文化の違いを感じます。

イギリスの文化として外せないのが「ブリティッシュパブ」です。
お店の都合で朝7時から伝統的なパブの煙突掃除にもお伺いしました。

前後に扉があるタイプの薪ストーブは初めてお目にかかりました。

仕事終わりはパブで一杯やるのもイギリス人の定番の習慣です。
この日はジョーさんに煙突掃除を教えてくれたマークさんの仕事に同行させて頂いた後に、
パブでご一緒させて頂きました。
(因みにイギリスはビールの単位が1パイント=568mℓ)
基本的には同じ協会の同じカリキュラムに沿って仕事をしてるので、
手順的に大きくは変わりはないのですが、使用する道具や出来る範囲
(屋根に登るか、ストーブの修理もするかなど)もそれぞれで
「百人いれば百通り以上の方法がある」とジョーさんは言っていました。

ジョーさんのお友達で、大工兼ストーブ施工をやっている
デイブさんの仕事場にもお邪魔させて頂きました。

正に住宅を改装している最中でイギリスの住宅の構造を見るにはいい機会でした。
ブロック煙突を積んでいる我々にとって、煉瓦で家を建てるという
気が遠くなる程の大変さは想像がつくのですが、
デイブさんの絵に描いたようなタフガイっぷりに
「やっぱりこういう人がやってるんだな」
と妙に納得しました![]()

煙突掃除に取り掛かる前に、一つ気になっていたことが
「あまり室内の換気を気にしてないな」ということ。
イギリスの住宅は近年の日本の住宅とは違って気密とは
無縁の家がほとんどです。
寧ろわざと隙間を多くして風通しを良くする傾向にあります。
最近の新築住宅はある程度、断熱・気密を取り入れてるそうですが
古い家の価値が高いイギリスではそもそも新築住宅の割合が少ないです。
(👆シャワー室を使用した際は天井の窓を開けて湿気を逃がす
必要がありました。)

レンジフードは室内循環型が多いそうです。
日本ではほとんどが外に排気するタイプなのですが、
気密化が厳格になるにつれて薪ストーブへの悪影響を考慮すると
この室内循環型も提唱していきたいところ。
(上の写真はフィルターが詰まってあまり吸わなくなった様子。
このフィルターの交換が面倒というのがネックではありますが)
暖炉文化が定着しているイギリスは「暖炉に悪影響を与えない」という
基準の元に全てが設計されていると感じました。

そしてこれはジョーさんからの粋な計らい。
基本煙突掃除の最中は実際のお客様宅の仕事なので私たちは道具の出し
入れなどの補助的なサポートのみを行っていましが、
ジョーさんのご自宅で煙突掃除をさせていただきました。
私たちに海を渡って煙突掃除をしてきたという経験をプレゼントして
くれたその気遣いに感謝しております。
イギリスでの生活と人々の豊かさ
正直イギリスに来るまではSNSやニュースで移民問題が取り上げられていて、
治安や文化の崩壊が進んでいるのではと少なからず不安はありました。
ところが滞在中はそんな不安を感じることも無く、
イギリスの人々の寛容でユーモアに溢れた国民性を随所に感じておりました。
「スモッグ事件」や「クライミングボーイ」などの悲劇的な経験を教訓として、
国民の命を第一に考える制度を築いてきた姿勢も見習うべき点だと思います。

そしてもうひとつの心配、「食事」についてですが
その心配もいい意味で覆されました。

滞在中に終始ご馳走になったイギリス料理はお世辞抜きでどれも美味しく、
特にルイーズさんの手料理は帰国してからも恋しくなるほどでした。
ジョーさんご夫妻のホスピタリティと、
寛容性や礼儀正しさなど、人として学ぶことがたくさんありました。
北海道の煙突掃除への還元
余りある土産話とジョーさんからのプレゼントを携えて帰国。

チーム横山全員分のユニホームと、

滞在中に私たちが気に入った道具をプレゼントして頂きました。

社内で報告会を開き、今後の自分たちの仕事にどう生かしていくかを
議論し合いました。
もちろん今まで定着したやり方や道具、既存の煙突の構造を
一変するのは簡単ではないですが、
更に安全に効率良く、お客様に満足してもらえる方法を
取り入れれる部分は取り入れて更にスキルアップとスケールアップ
をしていきます。

北海道、また日本で煙突掃除を専門職とする存在がいかに希少か
再認識出来た今、
我々の「北海道の冬の暮らしを守る」というスローガンを
より一層自覚し精進して参ります。

