北海道の煙突掃除屋が見た煙突火災(煙道火災)の実態と対策
北海道の煙突と煙道火災の実態

北海道はブロックやドカンで建てられた集合煙突や、ペチカというロシアから
来た独特の暖房設備が今でも多く利用されいる地域です。
当たり前ですが一年の中で暖房を使用する期間が日本で最も長く、
地域差にもよりますが平均でも10月から5月までの約7カ月はストーブを利用しています。

ホームセンターでは安価な薪ストーブと煙突が販売されており、
自宅に集合煙突があればそれに接続したり、DIYで煙突を施工して薪を焚いている
なんて光景も多く見られます。
それでいてアメリカやヨーロッパの様な煙突掃除に関わる法律や
資格制度も存在しておりず、煙道火災を引き起こす確率が極めて高い
地域と言えます。

我々は薪ストーブの販売店である前に「筒師®」として、その様な一般住宅から
商業施設の煙突、燃料は薪のみならず石油、石炭、コークス、重油、廃油など多種多様な
煙突の掃除を請け負う「煙突掃除の専門家」となって今年で早40年になります。
その為、煙道火災が起こった現場を日本で最も見てきたであろう立場から
注意喚起としてその実態をご紹介します。
煙突掃除屋が見た煙道火災
長年この仕事をやっていると毎年必ず
煙道火災が発生したというお電話を頂きます。
ほとんどは事後に現場に伺うことになるのですが、
その時には既にお客様でどうにか鎮火していたり、
消防が入っていたり、最悪の場合
家屋に燃え移った後の現場を拝見する場合もあります。
(当事者にとっては公にはしたくない事故なので
火事が起こった写真は公開しません)

こちらはペチカで煙道火災が起こった後の状態です。
黒光りのタール(クレオソート)がぎっしりと付着し、それに引火した様子です。

鍾乳洞の様に膨らんでいるのがタールに引火した形跡になります。
煙道火災は発生しても気付かないケースもありますが、
我々が煙突掃除に伺った際にはこの形跡の有無で煙道火災が
起こったと判断出来ます。

こちらは掃除後です👆
煙道火災が起こった部分は水分が飛んでカサカサのクッキーの様になっており
落としやすいのですが、残りのこびり付いたタールはブラシで擦った程度では簡単に落とせません。
そこが我々筒師の専門技術や道具の見せ所になります。

多い時は一般家庭でもこれだけ煤やタールが出ることもあります。

こちらは集合煙突が完全に詰まった例です👆
空気を絞って長時間低温で薪を焚くのを繰り返すと煙道火災の前に
完全にタールで詰まる場合もあります。
これはこれで一酸化炭素中毒の恐れがあるので危険です。
一酸化炭素は無味無臭なので気付かない内に室内に充満して、
始めの症状として頭痛や吐き気、次に眠気が来て最悪死に至るケースもあります。
もちろん一酸化炭素以外の匂いを含んだ煙も出るので、臭いと感じて換気扇を回す方が
結構おられますが完全に逆効果です。
どんどん室内に一酸化炭素を含んだ空気を引っ張ってしまうことになるので
その場合は窓を開けて換気する方が好ましいです。

ここまで詰まってしまったら最終兵器の出番です。
これだけは最新の電動工具よりも筒師社長お手製のタール削り機を使用します。

念入りに時間をかけて掃除するうちに雪が積もってきてしまいました。
寒そうに見えるかもしれませんがガチガチに詰まったタールを貫通させ、
こそぎ落とす作業をしていると寧ろ汗だくになっております。

こちらは薪ストーブの室内煙突でタールが強固にこびり付いて
削ることもままならない状態だった例です。
言うなればこびり付いたキャラメルの様になっており
このままでは落としきれないと判断して最終手段に至りました。

近くに民家が無かったこともあって、
オーナーさんの了解と立ち合いの元、タールに火を点けて燃やしました。
滅多にやらない方法ですが、煙道火災の恐さを知って
頂くという意味も込めて見て頂きました。
実際煙道火災が起こるとこのようにゴーゴーと音を立てて
煙突の先端から火柱が上がります。
これがストーブを使用してる最中なら中の温度はもっと高温になり
1000℃~1200℃まで到達する場合もあります。
シングル煙突なら煙突が真っ赤になります。
経験した方は皆さん
「火事になるかと思って本当に恐かった」と仰います。
大抵一度経験した方は1年に一回の煙突掃除を欠かさず
依頼して頂けるケースがほとんどです。

タールが燃えたあとはこのようにカサカサに膨らみ落としやすくなります。
稀に「煙道火災があったから綺麗に燃えきった」と思ってる方もいますが、
実際はこのように膨らんで残ってたりするので掃除と点検は必ず必要です。

こちらはチムニーファンにタールが付着してる様子です。
宿泊施設や飲食店で使用している暖炉やピザ窯には
逆流を防ぐ為にこの様な強制排気が取付けられています。

構造的に焚き口が解放されている為空気がたくさん入り、
直接的に煙突に火が入りやすい為、
タールが付くと煙道火災になりやすく、煙道火災になった場合は
このファンが故障してしまいます。

このファンのタールを落とすだけでもかなりの時間と労力を費やしました。

大きな開放型の暖炉はこの様に中に侵入して掃除したりもします。

こちらは交換した古い焙煎機の煙突に火を点けてみた様子です。
焙煎機の煙突にこびり付くのは煤では無くチャフという
コーヒー豆の薄皮が付着したもので、煤よりも引火しやすい
特徴があります。
実際焙煎をしているコーヒーショップで煙道火災が起こった例は
多いです。

比較的煤が付きにくいと言われる断熱二重煙突でも
煙突トップでは断熱されてないのでこの様にガチガチにタールが
詰まる場合もあります。

笠に防鳥用の網が付いている場合はこの様に網目がびっしりと隙間なく
タールで詰まるなんてこともあります。

強制排気しているペレットストーブでも不完全燃焼を引き起こすと
形成されたタールに引火して煙道火災が発生する場合もあります。

そして案外厄介なのが灯油ストーブの煙道火災です。
そもそも灯油ストーブは煙突掃除が必要じゃないと思っている方が
いらっしゃるのが現実で、そこに大きな落とし穴があります。
上の写真は灯油のFFストーブで煙道火災があった例です。

もし灯油ストーブで煤に火が付いてしまった場合、
配管のみならずストーブごと燃えてしまうことがあります。
煙道火災になっても灯油が出続けてしまい、液体燃料なのでストーブ周りに
灯油が漏れて火が燃え移りやすい特徴があります。
薪ストーブの様に炉台や防火壁もなければ、離隔距離など考えて設置してない
ケースが殆どなので実際起こると怖いのが灯油ストーブの煙道火災
です。
煙道火災を起こさない為には?
以上のことから煙道火災が発生した現場では
・定期的なメンテナンスをしていない
・不完全燃焼が発生し煙突にタールが付着していた
ということが概ね共通しています。
先ずは定期的なメンテナンスは薪・ペレットなどの木質燃料なら
最低でも一年に一回、灯油なら5年に一回の煙突掃除・メンテナンスをお勧めします。
(灯油ストーブの分解掃除は2年に一回、
ホームセンターの薪ストーブで使用する3寸5分煙突
なら2~3週間に一回の掃除が目安)
不完全燃焼を起こさない為には、薪なら適切に乾燥した薪を使用する事。
(含水率15~20%程度が理想)
空気を適切に取り込むこと(空気調節の絞り過ぎに注意)
それから室内を負圧にしないことが大事になります。
負圧とはその場の気圧が低いことで、24時間換気やレンジフードが
回ることによって室内から外に空気が排出するのに対し、
給気口などから室内に取り込む空気が少ないと発生します。
最近の高気密住宅は特に気密性が良くなっており、計画換気として設けた
給気口だけでは24時間換気が回るだけでも薪ストーブが燃焼する際の
煙突ドラフト(上昇気流)よりも強い負圧状態となり不完全燃焼、
更には逆流することもあります。
室内が負圧になっている分ドラフトの力にもマイナスの力が働き、
レンジフードを回すともっと極端な負圧状態になります。

更に厄介なのは給気口もフィルターがほこりで詰まると更に
負圧状態が強くなるので、長年問題無く使用していたのに徐々に状況が
悪くなっていくケースもあります。

こちらは外気導入口のフィルターが詰まっていた例↑
室内の給気口や外気導入口のフィルターも年に1回は点検・掃除することを
お勧めします。

住宅の設計では取り付ける給気口の数が薪ストーブのドラフトや
フィルターの詰まりまでは計算には入っていない場合が多いです。
弊社で施工する場合は径が150Φのプッシュ開閉式給気口(写真:左)や、
パスカルダンパー(写真:右)という室内が負圧になった場合(ー7Pa程度から)
弁が開いて自動で調節してくれる給気口を状況に応じて取り付けます。
(理想を言えば2つとも取り付けるのがベストです)
外気を直接ストーブに取り込む外気導入もひとつの方法ではありますが、
これがあれば大丈夫と言える程の代物ではなく、高気密化が進むにつれ
ストーブに集中的に湿気を含んだ空気が入ることにより
一年もたたずに新品のストーブが錆付いてしまうという問題もあるので考えものです。

薪ストーブで普段不完全燃焼が起こっているかを見分けるには、
消火後に薪が炭の様になって残っていたらそれは不完全燃焼が
発生していたと言えます。
薪を朝まで長持ちさせる為に寝る前に大きな薪をどんと入れて
空気調節を極端に絞るという使い方をしている方や、それを
推奨している近所のおじさんもいたりしますが、これを繰り返すと
炉内や煙突の中にタールがびっしりと形成されてしまいます。
一酸化炭素も温度が下がってドラフトが落ちると24時間換気で
室内に引っ張られる可能性も大いにあります。

念のため一酸化炭素警報機を取り付けるのも
有効な安全対策の一つです。
「その場から離れる時に火が点いてるのがなんか恐い」
という方も多くいらっしゃいますが、
ここまで読んで頂けた方はその度に空気を絞ることの
方が恐ろしい行為ということを理解して頂けたかと思います。
とにかく最後は綺麗に燃やしきるということが大事です。
煙道火災が発生してしまったら
では、実際に煙道火災が起こってしまった場合どの様に対処すればいいか。

※写真は海外の煙突掃除の友人から頂いた資料から
一度煙道火災が起こってしまったら、この時ばかりはとにかく
酸素を遮断することが先決です。
ストーブの空気調節は完全に閉め、
外気導入口のダンパーがあるなら可能であれば閉めましょう。
室内の給気口も閉めると更に燃焼を弱めれます。
下手に薪を出そうとドアを開けるとその瞬間に一気に空気が入り
燃焼を加速させてしまうので危険です。
とにかく鎮火を待ちましょう。

薪ストーブに水をかけてもあまり効果が無いのと
鋳鉄製ならストーブにヒビが入ってしまう恐れもあるので止めましょう。
家屋に燃え移ることも考えられるので、119に連絡するか
いざという時は消火器で消火するのも最悪の被害を免れる方法です。
これはストーブに限らずですが自宅に一台は消火器があると安心です。

煙道火災が起こると煙突はどうなってしまうのか。
以前、解体した土管を利用し
煙突効果を期待して炭の火起こしをしていた時の出来事です。
因みに一般的な煙突の土管は素焼きの土管が大半ですが、
これは今から50年以上前に土管だけで組み立てられていた煙突でして
本来素焼きよりも熱に強い本焼きの土管です。
今は資料館などでしかなかなかお目にかかれません。

しばらくするとみるみるうちに土管にヒビが入ってきました。
集合煙突の中に入っている土管も煙道火災があるとこの様に
割れてしまうのだと想像出来ます。

集合煙突はこの様に土管とブロックの間にコンクリートを流し入れている
ので、もともとの耐火性は強いにしても木材と密接に施工されてることが殆どで
そこにヒビが入っていたりすると家屋に燃え移る危険性があります。

断熱二重煙突はというと、放熱しにくい変わりに内側のインナーが
変形し破損してしまいます。
断熱性能が高ければ高い程この様になりやすいので、適度な放熱も
大事になります。
以上のことから、我々の様な施工業者やストーブの販売店は
煙道火災にならない様な環境を作る事、
お客様にその様な使い方を理解して頂くこと。
仮に煙道火災になっても家屋まで燃え広がらない施工をすることが
求められています。
ストーブユーザーさんも基本的な知識を得て定期的なメンテナンスを実施し、
安心して快適なストーブライフをお過ごしください。

